2024.09.01
- 楽しみ方
パンとワインの深~イイ関係
あっという間に9月ですね。残暑厳しく、秋の気配はどこへやらといった雰囲気ですが、もう少しするとワインにとっても私たちにとってもベストコンディションな季節がやってきます。実りの秋は食材も豊富ですのでワインライフもより充実したものとなります。
そこで今回、注目したのは「パン」です。ここ数年、パン人気が再燃中。パンフェスなどのイベントやパンを特集した雑誌なども続々リリースされています。パンのお取り寄せ販売に対応しているベーカリーも増え、自宅に居ながらにしてありとあらゆるパンを楽しめる時代になりました。そこで、今回はワインとパンの関係性を掘り下げながら、ワインの楽しみ方をご紹介します。
■今話題の「パン飲み」とは
みなさんは「パン飲み」なる言葉をご存知でしょうか。文字通り、パンやちょっとしたおつまみとお酒を楽しむことで、主にイートインできるブランジェリーやビストロなどで展開されています。お好みのパンやワインを買ってきて自宅で楽しむのも「パン飲み」です。こうしたスタイルが今、話題を集めているとか。これには日本のパン事情の大きな変化が背景にあるようです。
ここ15年近く続いているパンブームですが、リーマンショックがあった2018年以降が本格的なパンブームだそう。不況下でも美味しいものを食べたい欲求は変わらず、それを上手に満たしてくれたのがパンです。パンは1個数百円で買える手軽さに加え、菓子パンやお惣菜パン、ハード系などバラエティに富み、様々なニーズに応えてくれます。さらに、日本におけるパンのクオリティも向上し、ヨーロッパで修業を積んだ本格ブランジェリーの台頭などもパン人気に拍車をかけています。
そんな中、東京商工リサーチによると、2023年度の町のパン屋の倒産は過去最多の37件。この数字は遡ること4年前の2019年最高だった倒産件数を上回っています。パンブームといっても薄利多売のビジネス形態であることや競争の激化から、時代のニーズにマッチしないパン屋は淘汰されてしまうという厳しい現実があります。だからこそ、よりパンを楽しめる機会を創出しつつ、売上もしっかり確保する「パン飲み」が展開されるようになったのではないでしょうか。
さらに、SNSなどの普及もあり、パンマニアが発信する各地のパン情報も「パン飲み」に貢献。お取り寄せすることで全国の美味しいパンを味わえるように。また、自宅で焼き上げる冷凍クロワッサン生地の販売や急速冷凍したパンを自然解凍するだけで焼き立ての味を楽しめるなど、パンを美味しく食べられる工夫も広がっています。
■パンとワインの深~イイ関係
歴史的にもパンとワインは深いかかわりがあります。キリスト教では、パンとワインはキリストの体と血を表すシンボルとして、聖餐の儀礼で用いられています。また、スペインでは「Con Pan y Vino Se Anda el Camino(パンとワインがあれば進んでいける)」という諺があるくらい、パンとワインは生活必需品としてヨーロッパ諸国では考えられています。
そして、パンもワインもお互いに「酵母」の力を借りて出来上がる食品です。こうした共通項もパンとワインの良好な関係を表していると思われます。ちなみにワインを評する時に「イースト香が感じられる」などという場合があり、ワインのテイスティングするイベントでは、口の中をリフレッシュさせるものとしてバゲットが用意されていることもあります。このようにパンとワインは昔から深くて、いい関係なのです。
■秋の夜長に…パンとワインのペアリング事例
そこで今回は、地元で人気のベイカー、nowhere bakery天寧寺倉庫の佐藤素子さんにご登場いただき、パンとワインのペアリングを実践していただきました。
今回セレクトしたワインはコノスルが、5年以上の歳月をかけて各地のテロワールの研究を重ね、それぞれの品種の個性を最も引き出す区画を選び抜いて誕生したシリーズです。ラベルにはそれぞれの区画番号、区画の名称、地域名が記載されています。まさにブドウが育ったテロワールを反映したワインシリーズ。このシングルヴィンヤードから、リースリング、シャルドネ、ピノ・ノワール、そして8グレープスの4本をセレクトしました。
実は素子さん、ワインが大好きで、コノスルワインもご愛飲いただいているとのこと。しかしながら、シングルヴィンヤードシリーズは、初体験。そこで、シングルヴィンヤードのコンセプトをお話すると、とても興味深く聞いてくださいました。というのも、素子さんの作るパンもその土地の気候風土を表現するように、単一の畑で採れた小麦を使用したり、小麦の品種の特長などを意識したパン作りをしたりしているそう。「共通する部分がたくさんあり、とても感動しました」というコメントもいただきました。
それでは、早速、素子さんのこだわりのパンたちとコノスル ワインを合わせてみましょう。
シングル ヴィンヤード リースリング×会津産黄金桃のフォカッチャ
トップバッターは、柑橘系果実や熟れたカリン、桃などの果実香と白い花のような豊かな香りが楽しめる「シングルヴィンヤード リースリング」とちょっぴり南国フルーツ系のニュアンスもある「会津産黄金桃のフォカッチャ」のペアリングです。
フォカッチャは化学肥料や化学農薬不使用の北海道十勝産契約栽培の小麦とイタリア産の自然栽培のオリーブオイル、天日塩を使用したシンプルな生地に旬の地元産の黄金桃をトッピングしたお食事系パン。フルーツアレンジのパンというと甘いデニッシュ系が多い中、フォカッチャにトッピングしたことで、甘酸っぱいフレッシュな桃の風味とフォカッチャの生地のうまさがダイレクトに感じられます。これにシングルヴィンヤード リースリングの酸味と凝縮された果実味が優しく寄り添い、一口ごとに幸福感で満たされます。休日のブランチなどにいかがでしょうか。
シングル ヴィンヤード シャルドネ×パン・ド・カンパーニュ
お次は白ワインの王道ともいうべき「シングルヴィンヤード シャルドネ」とハード系パンの代表格「パン・ド・カンパーニュ」のペアリングです。こちらは北海道十勝産契約栽培小麦「キタノカオリ」という品種の全粒粉とライ麦ハンコックを使用。滋味深い小麦の味わいに、シングル ヴィンヤード シャルドネの豊かな酸とボリューム感のあるボディ、凝縮された果実味、さらにミネラル感やクリーミーな余韻が溶け合います。シンプル・イズ・ベストとはまさにこのこと。あとは品質の高いオリーブオイルやチーズ、シャルキュトリ(ハムやソーセージなどの食肉加工品)があれば、上質極まりないパン飲みの完成です。パンマニア、ワインラヴァーにはたまらない組み合わせかも。
シングル ヴィンヤード ピノ・ノワール×スパイスキャロットケーキ
続いて赤ワインへ参りましょう。「シングル ヴィンヤード ピノ・ノワール」と「スパイスキャロットケーキ」のペアリングです。シナモンやカルダモン、ナツメグ、ラム酒と有機栽培の人参の複雑な味わいがチェリーやイチゴ、ラズベリーなど赤い果実の甘酸っぱい果実味とふくよかなボディ、細やかなタンニンが特長のシングル ヴィンヤード ピノ・ノワールがしっかり受け止めています。ワインのエレガントな余韻で大人のキャロットケーキに様変わりしました。
またこちらには、無花果とラムの生ショコラ(ケーキ)も良く合いました。シングル ヴィンヤード ピノ・ノワールにはカカオや紅茶の葉のようなニュアンスもあるので、チョコレートや紅茶を使ったパンやスイーツにも合います。
シングル ヴィンヤード 8グレープス×ナッツフリュイ
「シングル ヴィンヤード 8グレープス」は名前の通り8種類のブドウをブレンドしたコノスルの全く新しいコンセプトの赤ワイン。しっかりとした果実味と酸味が感じられ、ふくよかでボリューム感のある味わいが特長。タンニンはよく溶け込んだ印象でスムースな飲み心地です。こちらには、クルミやアーモンドなどのナッツと無花果やレーズン、クランベリー、アプリコットなどのドライフルーツをぎっしり練り込んだハード系パン「ナッツフリュイ」をペアリング。こちらもなかなかの好相性!シングル ヴィンヤード 8グレープスの多彩な表情とナッツフリュイが似たテクスチャーなので、合わないわけがありません。秋の夜長に映画を観ながら・・・というシチュエーションによさそう。しっぽりとした時間が充実感を与えてくれそうです。
もう一つ、ワイン好きな素子さんならではの「赤ワインカンパーニュ(写真の奥)」も8グレープと絶好の相性でした。赤ワインにオレンジや黄金桃、シナモン、アニス、グローブなどでサングリア的に仕上げたものを水代わりに加えた贅沢なオリジナルカンパーニュ。もうこれはワイン好きのためのパンといっても過言ではありません。
ということで、実際に今回のペアリング事例の数々を素子さんに試していただきました。
「本当にワインとパンがあれば、至福の時間が始まりますね。そしてコノスルワインのクオリティの高さ、バリエーションの豊かさに驚きました。私の作ったパンもいつもよりドレスアップしていただき、ベイカーとして幸せです」とのこと。
また、ペアリングの基本として、パンにおいても似た特性を持つワインを合わせることがポイントになることを実感したという素子さん。早速、お客様にもご提案したいと声を弾ませていました。この後、パン好きな女性がもう一人加わり、豊かなパン飲みは続きました。
ぜひ、お好きなパンとワインを持ち寄ってのパン飲み、本当におすすめです。参考になさってみてください。
<取材・撮影協力>
・nowhere bakery 天寧寺倉庫 https://www.instagram.com/nowhere_tenneiji/
福島県会津若松市天寧寺町7-38 ヒューマンハブ天寧寺倉庫1F
営業日 木~日・祝日/11:00~17:00
・baker 佐藤 素子(さとう もとこ)
20代の頃、旅先のニューヨークで出会ったパンの美味しさに衝撃を受け、OLの傍ら仙台市にある老舗ブランジュリー「バーニャのパン」で修業。その後、独学でパン技術を学び2020年からベイカーとしてデビュー。素材にこだわった美味しくて身体にも嬉しいパンはイベントなどでは完売必至。お取り寄せも可能。お問い合わせはInstagram(@nowhere_tenneiji)のDMなどで受付。
この記事で紹介したワインはこちら
シングル ヴィンヤード リースリング
シングル ヴィンヤード リースリング
キトラルマン葡萄園の第23区画「ルーロス・デル・アルト Rulos del Alto(=高い位置の畑)」の葡萄を使用。白い花、柑橘系果実、カリンなどの豊かな香りが楽しめる。果実味がフレッシュで鮮やか。
シングル ヴィンヤード シャルドネ
シングル ヴィンヤード シャルドネ
エル・センティネラ葡萄園の第5区画「ケブラダ・アルタ Quebrada Alta(=小川の上流)」の葡萄を使用。トロピカルフルーツや白桃のような柔らかな香り、白い花のニュアンス。きれいな酸味とリッチな果実味、ミネラル感を備えた滑らかで豊かな味わい。
シングル ヴィンヤード ピノ・ノワール
シングル ヴィンヤード ピノ・ノワール
カンポ・リンド葡萄園の第21区画「ヴィエント・マル Viento Mar(=海風)」の葡萄を使用。色合いは明るめで、鮮やかな赤い果実の香り。チェリー、ブラックチェリーなどのジューシーな果実香。程よい酸味が楽しめるエレガントなスタイル。
シングル ヴィンヤード 8グレープス
シングル ヴィンヤード 8グレープス
8品種をブレンドした、コノスルの全く新しいコンセプトのワイン。それぞれの品種が織り成すハーモニーが素晴らしく、時間の経過と共に楽しめる。
この記事を書いた人
ソムリエ
たけうち あけみ
竹内 綾恵美
- (一社)日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート
- SAKURAアワード2024 審査員
料理が大好きで、国内外問わず、旅先では必ず市場を訪れる。ワインに出会い、味わいはもちろんのことワイン文化の奥深さに魅了される。
2019年にワインエキスパート取得し、ワインと食の追求に邁進する日々。