2020.01.24

  • 特集

【醸造家インタビュー】チリワインの新しい道「プレミアムチリワイン」への想い

1993年の設立以来革新的なワイン造りに挑戦し続けて急成長、世界最大のピノ・ノワール生産者となったコノスル。 その成長の中心的役割を担っているのがチーフワインメーカー、マティアス・リオス氏です。 農学を学んでいた大学時代、その土地の個性を表現できるワイン用ブドウに魅せられワインの道へ。 2003年にコノスルに参加してからは社長兼醸造責任者のアドルフォ・フルダード氏の右腕として活躍。 特にピノ・ノワールには特別な情熱を傾けてきました。プロモーションのため来日したリオス氏に、コノスルのワインづくりについてお話を伺いました。

2019年は「非常にいいヴィンテージ」

ーー今年(2019年)のブドウの出来はいかがでしょうか。

今年は涼しい時期もあり、マイポヴァレ—などではちょっと気温が高かったこともありました。しかしどんな天候だったとしても、ワインづくりで一番大事なのは「どのタイミングでブドウを収穫するか」ということです。もちろん2019年ヴィンテージにおいてもそれは重要視し、きちんと正しい時期にブドウを収穫することができました。

2019年は、ピノ・ノワールにとって非常に良い年になりました。白ワインに関しては、ややトロピカルな特徴が出ています。白ブドウは3月、黒ブドウは4月ぐらいから収穫を始めました。やはり大事なのは収穫のタイミングです。一般的にはやや暑い年だったと言われていますが、ワインにはそれほど暑さの影響は感じられず、非常にいいヴィンテージ(収穫年)だったと言えます。ちなみにチリは南半球なので3月、4月頃が収穫時期で、11月である今は既に収穫は終わっています。

次のステップ「プレミアムチリワイン」

ーーチリワインの一般的な特徴について教えてください。

チリワインは、フルーティでクリーンな香りと、ソフトなタンニンが特徴です。いいタンニンを得られるのと同時に酸も失うことなくちゃんと残っています。

これまでチリワインは低価格という印象があると思いますが、次のステップは、複雑性もあってエレガント、表現も豊かなワインを発信していくことです。目指すべきは「プレミアムチリワイン」です。今、その「プレミアム」の部分を示さなければならない時だと思っています。

来日中に行われたメーカーズランチで、
アイコンワイン「オシオ」について参加者に熱く語るリオス氏

ーー他のチリワインとコノスルワインの違いはなんでしょうか。

デリケートで、エレガントなワインづくりを心がけています。このことがコノスルを特徴づけています。コノスルではソーヴィニョン・ブランやカベルネ・ソーヴィニョンなど幅広く品種展開していますが、今述べたことは、あらゆる品種において表現しています。

熟成はブドウの樹齢や個性に合わせて細やかに

ーーワインの熟成について伺います。ワインを熟成させるプロセスにおいて最も重要視することは何でしょうか。

ブドウ品種によっても違いますし、ワインタイプによっても違うのですが、一番大事なことは、ブドウの樹齢によって熟成の仕方は変わるということです。プレミアムワインはより樹齢の高いブドウを使い、オシオなどは10年以上の樹齢のブドウで造られます。樹齢が高いと比重の高いブドウ、つまり凝縮度が高いブドウができますし、pH値が低いのですごくいい酸も得られるようになります。ブドウが持つポテンシャル、どういうところで育ったか。それらを踏まえて、それぞれのブドウの個性にあわせた熟成をすることが大事です。

ーーところで、「サスティナブル農法」と「オーガニック農法」という二つの農法について、ワインの出来上がりでの違いはありますか。

味わいでいうと、この2つの農法による違いはないです。マネジメントスタイルも同じです。ケミカルなものは使わないし、オーガニックワインはオーガニックの認証を取っているというだけです。向いている方向は同じですし、味わいの違いはありません。

恋人のようにブドウに向き合い、相手を理解する

ーー「オシオ」をつくる際の秘話などあれば教えてください。

私の信条は隠し事をしないことなので、残念ながら「秘話」というものはないのです。オシオにおいても「どのタイミングでブドウを収穫するのか」ということが一番大事なわけですから、あえて言うなら、いつどのタイミングで収穫するかを定めることがすごく難しかったという話でしょうか。

例えて言うなら、恋人との付き合い方みたいなものです。どれが正解ということもないし、誰かに相談できることでもない。彼女がどういう女性であるかを感じ取り、どうしたら彼女といい時間が過ごせるかをよく考えることです。そこに秘話なんてありませんよね。そのブドウに向き合い、ブドウの個性を理解すること。ピノ・ノワールという品種を理解すること。これが一番苦労したことだし、そうしてブドウと向き合うことをしてきたからこそ、オシオの成功があると思っています。答えがないことが答えです。

ワインをつくる前に「どんなブドウを作るか」

ーー最高のワインをつくるために一番重要なことは何でしょうか。

ブドウ畑と自分との関係です。これが一番大事です。ワインはブドウ畑でほぼ決まります。ワインメーカーがブドウ畑とちゃんと関係をつくること。ワインをつくる前に、「どんなブドウを作るか」なのです。

それぞれの畑は一個人として人格を持っているようなものです。みな同じではありません。清涼飲料水をつくるような、みんな同じマネジメントをするわけにはいかないのです。そのブドウ畑を理解して向き合って、いいところを表現させてあげる、このことが何より大事です。

ーーマティアスさんにとって、一番作るのが楽しいワインとは何ですか?

すべての品種、どれをつくるのも楽しいですが、もし例外としてあるとすればピノ・ノワールです。なぜなら、ピノ・ノワールはとても難しい品種で、そう簡単にはうまくいかないのですが、最終的に成功したら、その苦労はすべて報われたと思えるブドウなのです。

新しい挑戦「プレミアムオーガニック」とは

ーー今後作ってみたいワインやチャレンジしていきたいことはありますか。

実は今、「プレミアムオーガニック」というものをつくっている最中です。プレミアムオーガニックとは、コルチャグアヴァレーの樹齢の高いブドウからつくるオーガニックワインです。今あるオーガニックワインよりもさらにレベルの高いものになります。今回来日する前に、最後に味を決めるファイナルブレンドをしてきましたが、今までにないワインでした。

ブドウはカベルネ・ソーヴィニョンと、数パーセントですがシラーを入れています。これは新しいチャンレンジでした。ブレンドもそうですが、樽の使い方もそうです。1年使った「1 year old」というセカンドユースの樽を8割使い、2割は新樽にしています。プレミアムオーガニック、正式には「オーガニック・グラン・レゼルヴァ」と言います。グラン・レゼルヴァとは長期熟成の意味で、チリでは規定はありませんが、実際に熟成した期間は16か月です。今、販売しているオーガニックの赤ワインは熟成6ヵ月ですので、既存のオーガニックに比べてプラス10か月は長く熟成しています。これを2020年にリリースしますので、どうぞご期待ください。

ーー最後に、日本の皆様にコノスル・ワインの楽しみ方や、これを楽しんでほしいというポイントはありますか。

コノスルワインをとにかく飲んでみて欲しい。私たちはチャレンジして色々なタイプのワインを作っています。日本には1994年に進出しましたが、コノスルが輸出した初めての国がUK(英国)と日本です。そういった意味で日本は重要で親近感があり、精神的な距離が近い国です。ですから、日本のマーケットにはどのような味わいが必要かを真剣に考えてきました。コノスルは自信を持って日本に合うワインだと思います。それはデリケートさだったり、ソフトさだったり・・・是非、試していただきたいです。

インタビュー日時:2019年11月29日(水)

マティアス・リオス(MatÍas Ríos)
ワインメーキング・マネージャー
チリ・カトリカ大学でぶどう栽培を学び、1999年に卒業。チリ国内のワイナリーで経験を積み、2003年にワインメーカーとしてコノスルに加入。以来、10年以上にわたり社長兼醸造責任者のアドルフォ・フルダドの右腕として活躍し、設立からわずか10数年でチリ有数のワイナリーに急成長し、また、「オシオ」を造り、世界最大のピノ・ノワール生産者になったコノスルにおいて、その成長の中心的役割を担っています。

最良のテロワールの発見、葡萄畑の適切な管理、最適な収穫のタイミングの決定、醸造チーム間の協力関係の構築などで重要な役割を果たし、また、サステナブルと有機栽培のプログラムにおいて指導的役割を担っています。

この記事を書いた人

熊坂 仁美

くまさか ひとみ

熊坂 仁美

  • (一社)日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート

SNSを中心にデジタルマーケターとして10年、企業アドバイス、書籍、記事の執筆、講演等を行ってきた。数年前から趣味でワインを飲むうちにはまっていき、本格的に勉強を開始して資格を取得。次の10年は、ワインや日本酒の文化とテロワールをテーマに研究と発信を行っていく。ワインの魅力で人を動かす「ワインツーリズム」にも大きな関心を寄せている。