2020.05.18

  • 知識

【知れば知るほど面白いワインの世界 vol3】今こそワイン資格に挑戦してみては?


1,ワインの資格を取るメリット

こんにちは、熊坂仁美です。ワインに関するちょっとオタクな話題をお届けするこの連載も3回目となりました。今回のテーマは「ワインの資格」。在宅ワークになってから時間が増え、これをきっかけに資格に挑戦してみようという方も多いのではないでしょうか。そこで代表的な2つのワイン資格について、私自身の体験談も交えつつお伝えしていきたいと思います。

その前に。

「そもそもワインの資格って実際役に立つものなの?」

もしそう聞かれたら、私は元気よく「イエス!」と答えます。はい、大いに役に立っています。

同時期にワインエキスパートを取った仲間たちにも資格のメリットを聞いてみました。「ワインの興味が広がった」「自信がついた」「人間関係が広がった」というざっくりしたものから「仕事につながった」という実利的なメリット、そしてなぜか「脳が若返った」という謎のメリットまでそれぞれ複数の回答をもらいました。みんな複合的によいことが起きているという感じです。

私自身が感じている一番大きなメリットは、「一目置かれるようになった」こと。いやらしい言い方ですみません。何しろこれまであまり「一目置かれた」経験がないもので、そのあたりは敏感に感じるのです。世の中には様々な資格があるわけですが、ワインの資格はその中にあって認知度も、世間的評価も高いと思います。

その理由は、ひとつには運営する組織の信頼性があるでしょう。そしてもうひとつは、ワインにまつわる情報というのがとにかく膨大でわかりにくく、専門知識が求められる分野だからです。

ワインはいま世界中で作られています。レストランでもショップでも、ワインは無限のようにあります。そしてワインには歴史、地理、文化、食生活、農業、さらには醸造学、地質学などいろんな要素がからんでいるので、ワインを理解するには部分的ではなく網羅的な知識が必要になるのです。「フランスワインのことは詳しいけどニューワールドのワインは全くわからなくて・・・」では専門知識があるとは言えません。また、ワインの銘柄に詳しくても、その国の歴史文化までは知らなかったり、赤ワインと白ワインの醸造方法の違いなどを知るチャンスもあまりないでしょう。

資格試験は、そういった自分の興味以外の部分を強制的に学ぶ機会でもあります。テキストには膨大な情報がコンパクトにまとめられ、体系的、網羅的な知識が身につくように設計されています。さらに、試験の日時は決まっているのでゴールも決めやすい。つまり、資格試験は短期間に集中して専門知識を得るのに最適な手段なのです。

そうやって身につけた専門知識がどう役立つのかというと、「目利き力」につながります。ワインの勉強を始めてしばらくたったある日、ワインショップに行きました。すると今まで何もわからなかったエチケットの情報が読み解けるようになっていることに気がつきました。まるで暗号解読のよう。ちょっと感動しました。それまでは派手なPOPや金賞受賞などの売り文句、価格だけでワインを決めていましたが、そういったキャッチーなものに惑わされることなく自分の基準でワイン選びができるようになりました。

「Life is too short to drink bad wine.(人生は短く、ダメなワインを飲む時間はない)」

いい言葉です。目利き力があれば、飲むべきワインとそうでないワインを見分けることができて、まわりの人にも喜ばれます。あと何年ワインを飲めるのかわかりませんが、このスキルがあるとないとでは幸福度が大きく違ってくると思っています。

2,代表的な二つのワインの資格



ワインには国家資格はなく民間資格のみ。民間ですから、運営団体の考え方や目的によって試験内容も合格基準も全く違います。国内資格と国際資格のメジャーなものをそれぞれ紹介します。

日本ソムリエ協会「ソムリエ/ワインエキスパート」

国内で最も歴史が古く信頼性が高いのは「一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A)」が認定する「ソムリエ」および「ワインエキスパート」で、国内でワインの資格に挑戦する、といえばほぼこの資格のことです。飲食業界で働く人が受ける場合は「ソムリエ」、それ以外(ワイン愛好家)の場合は「ワインエキスパート」と呼称が分かれています。ワインエキスパートは2次試験(テイスティング)までですが、ソムリエは3次試験(実技)まであり、よりハードルが高くなります。2019年のソムリエの受験者数は4,534人、合格率は29.8%、ワインエキスパートの受験者数は3,249人で合格率は44.2%。毎年若干の推移はありますが、約3割から4割が平均的な合格率になります。
注目すべきは累計で、1985年(当時はソムリエのみ)に開始し、2019年での有資格者数はソムリエが33,589人、ワインエキスパートが17,112人。合わせると5万人を超えます。この数は世界的に見てもかなり多く、海外では「日本はソムリエが3万人以上もいるワイン文化の国」と認識されているようです。

さらにその上を目指したい、という方には上位資格もあります。ソムリエ認定から3年以上、ワインエキスパートは5年以上で「エクセレンス」を受験することができます。このように、ある程度の経験を積まなければ受験資格が与えられない上に試験内容も難しく、合格率はワインエキスパート・エクセレンスが27.6%、ソムリエ・エクセレンスに至ってはわずか8.2%という狭き門です。この資格を持っている人は超エリートだと思って間違いありません。

人気急上昇の国際資格「WSET(ダブル・エス・イー・ティー)」

最近日本でも人気が高まっているのがロンドンに本部を置く国際教育機関WSET(Wine&Spirit Education Trust)の認定資格です。読み方が紛らわしくて、「ダブル・エス・イー・ティー」と言う人もいれば「ダブルセット」と言う人もいます。「ソムリエ/ワインエキスパート」は独学でも受験可能であるのに対し、WSETは認定校で講座を受け、修了後に試験を受けるスタイル。1969年の設立以来受験者は毎年増え続け、現在は世界75カ国、年間10万人以上が受験しています。イギリス、中国、アメリカの順で受験者数が多く、日本は9位ですが伸び率は世界トップの33%増。(※)人気急上昇の資格なのです。

WSETは全体がピラミッドのような構造になっています。それも雲の上にそびえ立つような大きなピラミッド。裾野は広く上に行くに従って難易度が加速度的に上がるようなっています。レベル1と2は講座さえ受ければほぼ合格。レベル3になるとかなり勉強が必要になります。レベル4は「ディプロマ」と呼ばれ、超難関。単位を一つずつ取っていくスタイルで取得までに数年かかると言われています。2017/2018期の合格者は世界で532人、うち日本人はわずか10人で、合格者はロンドンのギルドホールで表彰されます。ピラミッドの頂上に君臨するのは「マスター・オブ・ワイン」(連載第1回参照)で、そこまで辿り着くことができたのは世界でまだ400人しかいません。

雲の上の話をしてしまいましたが、一般人が挑戦しやすく、かつプロレベルの知識があると認めてもらえるのが「レベル3」で、「ソムリエ/ワインエキスパート」と難易度が近いと言われています。ただし内容も試験のスタイルも全く違います。私はこの二つの試験の両方を受けましたが、両方とも一度では終わらず再試験し、なんとか2年越しで合格しました。その経験から、考え方もアプローチも全く違うこの二つの資格を比較してみたいと思います。

(※)引用:ワインリポート https://www.winereport.jp/archive/2378/

「ソムリエ/ワインエキスパート」と「WSETレベル3」の違い

まず「ソムリエ/ワインエキスパート」から。資格認定を行う「一般社団法人日本ソムリエ協会」はもともと「飲料販売促進研究会」として発足しており、飲食店におけるサービスのプロであるソムリエを育成することで、ワインを中心とする飲料の販促を目的として始まった資格です。途中からワイン愛好家にも門戸を広げ「ワインエキスパート」資格が設けられました。

一方でWSETはイギリスのワイン貿易商組合『Vintners Company』が始めたもので、ワイン産業そのものをサポートするという目的で誕生しました。ワインというとフランスのイメージが強く、何でイギリス?と思う人も多いでしょう。たしかにイギリスはワイン産出国ではありませんが(今は違います)、ワイン産業を大きくしてきた立役者なのです。ボルドー、シャンパーニュはイギリスの貴族階級が顧客となって発展し、その後も貿易を通じて各国のワイン市場が拡大していきました。あくまでワイン産業の振興という立ち位置での資格なので、サービスというより生産者やマーケティング寄り。取得しても「ソムリエ」は名乗れません。

二つの組織の成り立ちの違いは、試験内容にも反映されています。
「ソムリエ/ワインエキスパート」は基本独学で学べるようになっており、試験に申し込みをすると約700ページの分厚い「日本ソムリエ協会教本」が送られてきます。本のほとんどの部分は各国のワインの特徴(全26カ国)で、それぞれの国の専門家が執筆しており、毎年改訂されます。ボルドーの格付けシャトーなどの有名ワインはもちろん、ブルガリアやルーマニアなどあまり馴染みのない国のワイン、そして見落としがちな日本ワインについても詳しく学ぶことができて、最新のワイン知識を網羅的に蓄えることができます。教本の内容が頭に入っていれば、どんなワインが来てもひるむことなくその概要を第三者に伝えることができるはずです。

試験は教本の中から100問、4択(CBT方式)で行われます。細かい部分までランダムに出題されるので、試験対策はとにかく覚えること、これに尽きます。私は記憶力が怪しく、覚えてもすぐに忘れるザル脳なので、なるべく関連づけて覚えられるように産地の地図を自作したり、ポイントをまとめたカードを作って常に持ち歩いて覚えました。


<テキストから地図を写し取り、自分でわかるように書き加えて作ったカード>


一方でWSETレベル3の学習は、「何がワインのスタイル、品質、価格に影響を及ぼすのか」ということを一貫して問うものです。最初にブドウの生産と気候、醸造の知識などの基本を学び、それをベースに各国のワインを学んでいく形です。

日本の認定校は二校あり、私はそのひとつに通いました。試験も含めて全17回の講座で、テイスティングも含めて学んでいきます。テイスティングはWSET独自の方式があり、それに沿って行います。

試験は理論(セオリー)とテイスティングを同日に行い、それぞれ55%を取れば合格。逆に言えば4割落としても合格するので簡単に思えるかもしれませんが、難儀なのが記述問題です。学んだ知識を使ってロジカルに説明をする力が問われるため、マークシート方式とは全く違った準備になります。

たとえばチリワインの問題だとしたら、「ソムリエ/ワインエキスパート」の問題ならば「次の4つのワイン産地のうちチリのピノ・ノワールで有名な産地はどこか」といった聞き方になります。一方、WSETの場合は「チリでは近年ピノ・ノワールが成功を収めている。その理由を気候的な見地から述べよ」といった設問になります。チリの代表的産地と気候条件の説明、それがどうワインのクオリティに影響するかなどの要素が入っていれば点が取れるという感じです。これを「ああ、面倒くさい!」と思う人はたぶんWSETには向かず、「何それ面白そう」と思う人は向いていると思います。

WSETは日本での知名度はまだまだ少ないですが、海外でワインの仕事を探す時にはかなり有力な資格のようです。合格したときに私の先生が「レベル3を持っていると、海外でワイナリーに行った時にその威力がわかりますよ」と言ってくれました。今すぐにでもワイナリーに行ってみたいですが、コロナでそれもしばらくはかなわなくなったのが残念です。

3,コノスルでテイスティングトレーニング

試験準備で私が一番困ったのが「テイスティング」でした。座学は得意でしたがテイスティングは苦手、というか、どうトレーニングしていいかわからなかったので放置していたのです。しかしよく考えてみると、テイスティングこそがワインを理解する上で大事なスキル。座学とテイスティングは常に両輪で行うのがよいと思います。

でも、近くにワインスクールのある方ばかりではないでしょう。独学する場合には、まずは「主要ブドウ品種の区別がつく」ところを目指してみてください。そこで心強い味方になるのがコノスルです。コノスルは単品種のワインがラインナップされているので品種の違いを学ぶにはぴったりです。しかもお手頃価格なので、全てそろえてもさほどお金はかかりません。

赤なら「カベルネ・ソーヴィニヨン」「メルロー」「ピノ・ノワール」「シラー」、白なら「シャルドネ」「ソーヴィニヨン・ブラン」「リースリング」あたりが「ソムリエ/ワインエキスパート」2次試験で頻出のワインです。

テイスティングは1本ずつ行うよりも、2種類以上を同時に抜栓して飲み比べることで「違い」がわかります。惜しみなくどんどん抜栓してしまいましょう。

まず覚えたいのがシャルドネ。シャルドネは試験に頻出のワインです。ニュートラルな品種なので、味わいを複雑にして個性を与えるために木樽(オーク)熟成するのが一般的で、樽による影響がわかりやすく出る品種でもあります。バニラ、クローブ、ナツメグ、バター、ココナッツ、トースト、コーヒー、チョコレートといった香りを感じるとしたら、それは間違いなく樽熟成をかけたワインです。

一方、最近はシャルドネでも木樽ではなくステンレスタンクで熟成を行い、ブドウそのもののフレッシュな香りと味わいを強調するライトなつくりの「unoaked(アンオークド)」のシャルドネの人気が高まってきています。

そこでオークとアンオークド、2種類のシャルドネを飲み比べてみてください。

コノスルのラインナップでは「ビシクレタ」シリーズのシャルドネはアンオークド。木樽を使ったシャルドネは「20バレル」をおすすめします。20バレルはフレンチオークの新樽を75%使って熟成させており、典型的なオークのシャルドネです。これをビシクレタのシャルドネと交互に飲み比べるとその違いがはっきりします。ビシクレタがオレンジやパッションフルーツの香りとすっきりした味わい。そして20バレルは果実味に加えて樽のキャラクターの香りと味わい。


<オークの香りがはっきりした20バレル(上)とオークを使わないビシクレタ・レゼルバ(下)の2つのシャルドネ>


違いがわかるようになったら、次は「カベルネ・ソーヴィニヨン」と「シラー」など、似たタイプの品種を、メモを取りながら交互にテイスティングをしていき、自信がついたらグラスの底に品種の名前を書いた付箋を貼ってシャッフルし、ブラインドテイスティング(ワインのボトルやラベルを隠して行うテイスティング)に挑戦してみてください。ゲーム感覚で楽しめますよ。

このように、独学でも工夫次第でいろんなことができます。勉強に飽きたら、息抜きがてらコノスルテイスティングをぜひやってみてくださいね。

4,これからのワインの仕事

いま、コロナによって飲食店を取り巻く状況が一変し、先行きが不透明になっています。これからいったいどんな展開になるのか、正直誰もわかりませんが、逆にデジタル化が一気に進んだことで新しい需要が生まれ、今までになかった新しい仕事やサービスが生まれるときなのかもしれません。「オンラインソムリエ」なんていう仕事もありかもしれませんね。常識にとらわれずにいろいろ考えていくのも楽しそうです。

また、今私がこの記事を書かせていただいているように、ワインに関するライティングや、前回の記事に書いたようにインスタグラムを使ったPRや動画配信など、情報発信の分野は今後ますます需要が高まってくるのではないでしょうか。

この記事で紹介したワインはこちら


20バレル・ リミテッド・エディション シャルドネ
20バレル・ リミテッド・エディション シャルドネ
洗練度の高いクリーンな酸味と、それを包み込むように程よいボディがあり、非常にバランス良く上品な味わい。


ビシクレタ・レゼルバ シャルドネ
ビシクレタ・レゼルバ シャルドネ
フレッシュなパイナップルのトロピカルな香りと、微かなハーブやオレンジなど白い花のニュアンスが特長的。柔らかな酸味とトロピカルフルーツを思わせる果実味豊かなワイン。

この記事の監修者

熊坂 仁美

ソムリエ

くまさか ひとみ

熊坂 仁美

  • (一社)日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート

SNSを中心にデジタルマーケターとして10年、企業アドバイス、書籍、記事の執筆、講演等を行ってきた。数年前から趣味でワインを飲むうちにはまっていき、本格的に勉強を開始して資格を取得。次の10年は、ワインや日本酒の文化とテロワールをテーマに研究と発信を行っていく。ワインの魅力で人を動かす「ワインツーリズム」にも大きな関心を寄せている。