2021.03.22
- 知識
【ブドウ品種に詳しくなろう!】Vol.6「チリで花開いた個性派赤ワイン」カルメネール
今回ご紹介するブドウ品種は「カルメネール」。
初めて名前を聞く方も多いのではないでしょうか。これまでご紹介した中では最も知名度が低く市場に出回っていない品種と言えます。
かつては原産地であるフランス・ボルドー地区でブレンド用として使われ、19世紀にカベルネ・ソーヴィニヨンなどとともにチリに持ち込まれました。
その後ボルドーでは絶滅品種に数えられていましたが、気候の相性がよいチリで生き残り、その秘めたる魅力が進展しました。
いまでは生産量、品質ともにチリを代表する品種のひとつになっています。
1. カルメネールってどんなブドウ?
■メルローと間違えられた過去原産地ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド用品種としてプティ・ヴェルドなどとともに使われていたカルメネール。19世紀後半、世界中で大きな被害をもたらしたフィロキセラ(根に寄生する害虫)禍によってフランスは3分の2の生産量を失い、カルメネールもほぼ絶滅状態となりましたが、幸いなことに、ボルドーからチリにブドウが持ち込まれたのはフィロキセラ禍以前のことでした。
チリはフィロキセラによる被害を免れ、気候との相性がカルメネール栽培に適していたためチリ中のワイン産地に広がっていきましたが、そのプロセスでメルローとの混同が起こり、メルローと勘違いされて栽培が行われていました。1990年代初頭にブドウ学者によってメルローとの混植が発見され、カルメネールとしての栽培を実証したあと正式に認証されました。
その後メルローとの植え分けが進み、ヴィンテージを重ねるごとに栽培法も理解されるようになっていきます。カルメネールは早いうちに摘むと青い香りが残ってしまいますが、しっかり成熟したブドウを摘むと果実味が凝縮し、さらに樽熟成するとコーヒーやチョコレートのアロマを生み出します。完熟させることでそのポテンシャルが最大限に発揮される品種であることがわかってきました。
ちなみにカルメネールの名前はcarmine(深紅色)から来ています。葉の部分が秋になると紅く色付くことに由来すると言われています。
■カルメネールの香りと味わいカルメネールの色調は濃いルビーレッド。アロマティックでソフトなテクスチャーを持っています。イチゴ、ラズベリー、プラムなどの赤系果実に加えてハーブのニュアンス、スパイシーさもあります。樽熟成させたものはトースト、スパイス、チョコレート、甘いオーク、干し肉などのアロマがあり、タンニンは中程度。混同されていたメルローとは凝縮した果実味やテクスチャーが共通しており、またカベルネ・フランに似ているとも言われています。
■「カルネメール」の特徴まとめ1.ボルドー原産の黒ブドウだが19世紀に絶滅状態に
2.気候に合ったチリで生き残り、特性を発揮
3.メルローに間違えられて栽培が行われていた
4.ラズベリーやプラムなどの果実味とコーヒーやチョコレートのニュアンス
2. コノスルのカルメネール
コノスルのカルメネールが栽培されているのは、チリを代表するカルメネールの産地、カチャポアル・ヴァレー。ラペル・ヴァレーの最北端に位置し、カチャポアル川沿いの東西に広がるエリアです。高い気温と日照量の多さは、しっかりと完熟させる必要があるカルメネールやマルベックの栽培に適しています。
中でもカチャポアル・ヴァレーの北西にあるペウモはカルメネールの「聖地」と呼ばれるブドウ畑で、内陸側に突き出した海岸山脈と、その南側を流れるカチャポアル川に挟まれた平地にあります。カチャポアル川によって運ばれた砂と粘土を含む深い沖積土壌で、深い土壌を好むカルメネールに適しています。最高気温は高く、果実の成熟に大きく関係する昼夜の寒暖差は約20℃と非常に大きく、日照時間の長さにも恵まれています。
上位ラインである20バレル・リミテッド・エディション、シングルヴィンヤードのカルメネールは、このペウモのブドウを使用しています。また、シングルヴィンヤードは、この葡萄園の第28区画(区画名:ラ・リンコナーダ)のブドウを使用し、ラベルには「28」の文字が書かれています。
3. カルメネールに合う料理は?
フードペアリングの提案をしているサイト「The Matching Food and Wine」からカルメネールに合う料理をご紹介します。フードペアリングの専門家、フィオナ・ベケット氏曰く、「カルメネールはあまり馴染みがないかもしれませんが、美味しい赤ワインで、特に寒い時期にはぴったりです。カベルネ・フランと共通点があり、リッチでプラミーなところは、かつて混同されていたメルローとも似ています」とした上で、「グリーンで少しハーブのキャラクターがあり(より高価なワインには無い場合もありますが)、ハーブで味付けをした肉や魚と驚くほど相性がいい」と紹介。ハーブの中でも特にコリアンダーとの相性が抜群とのこと。
フィオナ・ベケット氏がお薦めする料理は以下の通り。ピーマンやパプリカといった「グリーン」なニュアンスに合わせた料理を中心に薦めています。
・ラム。特にハーブを効かせた骨付きのロースト。サルサソースを添えても。ラムカレー、中東スタイルのミートボール、ミントとコリアンダーを使ったケバブ
・ベーコン。カルメネールのスモーキーさと相性が良い。スモークしたベーコンチョップまたはリブなど。
・ほうれん草とブルーチーズのサラダ
・グリーンオリーブ入りのパン
・ケール、スイスチャード、サボイキャベツなど苦みのある葉野菜
・ピーマン、ズッキーニ、なすなどの野菜をチキンやポークに添えて
・アスパラガス、緑の豆
・チリペッパーを使ったメキシカンやタイ料理
・あぶり焼きのシーフード全般、特にマグロのあぶり焼き。
ピーマンなどの野菜料理や、スパイスコーナーに必ずある「コリアンダー」は肉の下ごしらえに使えますし、ベーコン料理などもすぐに取り入れられそうですね。またチリペッパーなどワインとの相性が難しい辛めの味付けもOKということで、日本の食卓にも合わせやすいワインと言えるでしょう。
4. カルメネール4種をテイスティング&ペアリング
コノスルのカルメネールのラインアップはビシクレタ・レゼルバ、レゼルバ・エスペシャル、シングルヴィンヤード、20バレルの4種。
コノスルのカルメネールは「グリーン」なキャラクターがなくなるまでしっかりと葡萄を熟しています。そのため、「グリーン」なニュアンスのある食材ではなく、ベーコンとペアリングしてみました。
まずは簡易燻製器でベーコンとチーズをスモーク。キャンプ用品として売られているものですが、家庭でも手軽に使えます。
特にベーコンの旨みと燻香がシングルヴィンヤードと20バレルのスモーキーさと抜群に合います。ワインが持つコーヒーやチョコレートのニュアンスも際立ちます。
次にコリアンダー、クミン、チリペッパーなどで少しエスニックな下味をつけたチキンをオーブンで焼いてみました。フィオナのおすすめはラム肉ですが、今回はより入手しやすい鶏もも肉を使いました。
あっさりしたチキンは、ボディが軽めのビシクレタ・レゼルバとレゼルバ・エスペシャルとの相性が良く、つい食が進みます。おそらくラムのようなクセのある肉であればフルボディのシングルヴィンヤード&20バレルに軍配が上がるところですが、準備がしやすく手軽なのはやはりチキン。カルメネールのお供としてスパイスを効かせたチキン、ぜひお試しください。
ちなみにシングルヴィンヤードはカルメネールを100%使用した単品種ワイン。20バレルは少しだけシラーがブレンドされ、バランスが整えられています。カルメネールの少し野性的な魅力を楽しむにはシングルヴィンヤード、より深く洗練された味わいを求めるのなら20バレルがおすすめです。
ボルドーブレンドの脇役、フィロキセラによる絶滅の危機、メルローとの混同など不遇な歴史を歩んできたカルメネール。しかし、チリのテロワールと醸造者たちの努力によってその個性が花開き、いまでは堂々の主役を張れる魅力的な赤ワインとなりました。
ハーブやスパイスを使うことで、肉でも魚でも、そして野菜にも合ってしまうこのワインは、ペアリングワインとしての汎用性もあります。カルメネールはまだ未経験という方も、一度飲んでみればきっとその大きな可能性を感じていただけると思います。
<参考記事>
https://www.matchingfoodandwine.com/news/pairings/the-best-food-pairings-for-carmenre/
<参考文献>
日本ソムリエ協会 2020教本
この記事で紹介したワインはこちら
ビシクレタ・レゼルバ カルメネール
黒コショウのようなスパイシーな香り、熟したブルーベリーの果実香、コーヒーなどの香り。フルボディで質の良い酸味、まろやかなタンニンがあり、バランスの良い味わい。余韻は長め。
レゼルバ・エスペシャル “ヴァレー・コレクション” カルメネール
熟成は11ヶ月。80%樽、20%ステンレスタンク。ブラックチェリーの果実香に、ビターチョコレート、コーヒー、なめし皮、ヘーゼルナッツなどの香りが感じられる。豊かなタンニンがワインにしっかりとした構成を与え、リッチでしなやかな味わいが特長。
シングルヴィンヤード カルメネール
ペウモ葡萄園の第28区画「ラ・リンコナーダ La Rinconada(=コーナー)」の葡萄を使用。赤い果実のジューシーな味わい、とてもバランスが良い。カルメネールの良さがしっかりと引き出されている。
20バレル・ リミテッド・エディション カルメネール
カルメネールの「聖地」、カチャポアル・ヴァレーのペウモ葡萄園の葡萄を使用。よく熟した濃厚な果実味が楽しめるしっかりとした骨格のフルボディ。
この記事を書いた人
くまさか ひとみ
熊坂 仁美
- (一社)日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート
- (一社)日本ソムリエ協会 SAKE DIPLOMA
- WSET SAKE LEVEL3
- WSET Level3
SNSを中心にデジタルマーケターとして10年、企業アドバイス、書籍、記事の執筆、講演等を行ってきた。数年前から趣味でワインを飲むうちにはまっていき、本格的に勉強を開始して資格を取得。次の10年は、ワインや日本酒の文化とテロワールをテーマに研究と発信を行っていく。ワインの魅力で人を動かす「ワインツーリズム」にも大きな関心を寄せている。