2020.07.22

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「お店でワインを出したい!」うなぎ屋さんの要望にソムリエ3人が白焼きと蒲焼きに合うワインを徹底検証

いよいよ夏到来。久々にうなぎを食べたいなと思っていたら想いが通じました。
知人のうなぎ屋さんから「お店でワインを出そうかと思うので、うなぎに合うワインを教えてくれませんか」とご相談を受けたのです。

企画系ライターとしては我が意を得たり。
「では、コノスルワインでペアリングの実証実験をしてみませんか。そしてそれを記事にさせていただけませんか」とご提案したところ、快諾いただきました。

ということで、ワイン有資格者が3人集まり、うなぎの「白焼き」と「蒲焼き」にどのワインが合うのか、ペアリング実験を行うことに。

1. うなぎとワインのペアリングに挑戦

場所は福島市を中心に5店舗を展開する創業45年のうなぎ割烹「味処 大番」本店。「愛知県三河産の活うなぎ」を使って丁寧に板前が焼き上げるうなぎは地元で人気が高く、この日も店内は大変混み合っていました。

今回用意したワインは白2種、赤4種の合計6種。



赤ワイン(左から)
・シングルヴィンヤード 8グレープス
・レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” カルメネール
・レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” シラー
・レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” ピノ・ノワール

白ワイン
・レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” ソーヴィニヨン・ブラン
・20バレル・リミテッド・エディション シャルドネ


白焼きには白ワイン、蒲焼きには赤ワインという前提ですが、実際にやってみないとわからないのがペアリングの面白さ。今回はそういった定説にとらわれず、先入観なしで相性を探ることにします。

参加したのは、コノスルラヴァーズ料理系ライター竹内あけみさん、ヨーロッパ在住経験をお持ちで大学でドイツ語講師をしている斉藤要子さん、そして熊坂。3人ともワインエキスパートで、ワインはもちろん「食」に対する飽くなき探求心がある(つまり食いしん坊)というのが共通項です。もちろん、「味処 大番」オーナー今野陽介さんにも加わっていただきました。

お店に到着すると、もうすでにうなぎのいい匂いが漂っています!

2. うなぎを家でおいしく食べるコツとは?

白焼きが準備できるまでの間、今野さんにうなぎについていろいろ伺ってみました。

熊坂:今野さん、今日はよろしくお願いします。こちらのお店の売りである「活うなぎ」と普通のうなぎはどう違うのでしょうか。

今野:「活うなぎ」は、あらかじめ処理されたうなぎを使うのではなく、板前が活きたうなぎを店内で調理してお出しするものです。

熊坂:うなぎをつかんで釘止めして包丁を入れるあれですね。

今野:そうです。当店では昔ながらのやり方でご提供させていただいています。


<「味処 大番」を運営する信夫木材通商株式会社 代表取締役専務 今野陽介さん>


熊坂:一匹一匹その場で処理していくわけですから、贅沢ですよね、でも最近うなぎが高くなっていて、ますます気軽に食べられないなという印象です。

今野:そうですね。10年前から比べるとうなぎの価格は1.5倍にはなっていると思います。

熊坂:今日は白焼きを出していただきますが、白焼きってスーパーなどではあまり見かけませんね。

今野:スーパーのうなぎは工業製品ですので、白焼きは難しいと思います。ほとんど中国産で、処理の仕方も違うんです。冷凍もするので身も痩せてしまいます。

熊坂:なるほど。やはりうなぎは白焼きに限らず、大番さんのような専門店で食べるのがベストですね。とはいえスーパーで買う方は多いと思います。家庭でうなぎをおいしく食べるコツってありますか。

今野:ひつまぶし風にわさびで食べるのがおすすめです。うなぎの蒲焼きというと山椒ですが、わさびもとても合います。山椒よりうなぎの脂を中和してくれる効果もあります。そこに刻んだ青ネギをたっぷりと。そして最後はお茶漬けですね。出汁は市販のお吸い物の素でいいと思います。

斉藤:あと、赤ワインで味付けするのもいいですよ。

熊坂:赤ワインで味付け?

斉藤:スーパーでうなぎの蒲焼きを買ってきたら、一度洗って味を落とすんです。そしてタレと赤ワインでさっと煮ます。そうするとうなぎがワインに合いやすくなりますよ。

熊坂:なるほど、それはやってみたいですね。

3. 「白焼き」に合うワインは?

熊坂:さて、白焼きが来ましたので早速始めましょうか。「ソーヴィニヨン・ブラン」と「シャルドネ」を冷やしていただいています。どちらが合うかコメントをください。


<レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション”ソーヴィニヨン・ブラン(手前)と20バレル・リミテッド・エディション20バレル シャルドネ(奥)>


竹内:食べる前にワインだけ飲むとソーヴィニヨン・ブランが合いそうですね。(白焼きを食べて)やっぱりそうですね。シャルドネだと果実味でうなぎの良さが消えてしまいます。お互いに主張している感じがありますね。

斉藤:ソーヴィニヨン・ブランがさっぱりしていて、うなぎのこってり感を受け止めてくれていますね。


<蒲焼きに比べてさっぱりした白焼きはワインと合わせやすい>


竹内:白焼きおいしいですねー。ソーヴィニヨン・ブランでうなぎのふっくら感が甘みとなって、ワインがさらにうなぎを引き立ててくれますね。

熊坂:そうですね。20バレルのシャルドネは大好きですが、ここではソーヴィニヨン・ブランに軍配でしょうか。

斉藤:ところで白焼きに赤ワインってどうなんでしょう。試してみたいです。

4. 「蒲焼き」に合うワインは?

熊坂:では、ちょうど蒲焼きも来ましたので、赤4本も一気に注いでしまいましょう。


<調味料はわさび、塩、山椒、醤油、たれを用意>


熊坂:うなぎと合わせる前に、皆さんにワインの香りと味の印象が聞きたいです。まずはピノ・ノワールから。

今野:実は今回ご相談したきっかけが、ピノ・ノワールなんです。うなぎと一緒に飲んだ時においしいなと思ったので。

斉藤:たしかに本命だと思いますが、ピノ・ノワールと一言で言っても産地や生産者によっていろいろありますから、そこは見極めていかないとですね。

熊坂:ああ、とても華やかな香りですね。このピノの産地は海側の「サンアントニオ・ヴァレー」で、寒流の影響を受けるので冷涼な気候で育っているブドウです。

竹内:このワインは何度も飲んでいますが、これ自体はとてもおいしいワインです。でもうなぎの相性となると、果実のアロマが強めなのでどうでしょうか。

斉藤:そうですね。この華やかさ、うなぎには難しそうですね。

熊坂:では、次はカルメネールいきましょう。

今野:カルメネールは初めてです。これはチリではよくある品種なんですか。

熊坂:はい、チリを代表する品種です。フランス原産ですが、チリに入ってきたときにずっとメルローだと思われていたブドウです。産地は「カチャポアル・ヴァレー」で、チリの北部で、かなり日照量が多い地域です。

斉藤:確かに香りや果実味がメルローに近いと思います。

熊坂:そしてシラーですね。産地はチリ北部の「リマリ・ヴァレー」で、砂漠に近い乾燥した畑で作られています。冷たい海風の影響も受けている地域です。

竹内:シラーの特徴であるスパイス香がよく出ていますね。

熊坂:最後は8グレープスです。先ほどのピノは太平洋側の冷涼な産地でしたが、こちらは内陸の「アコンカグア・ヴァレー」、アンデス山脈の中にあります。標高が高くて、日夜の寒暖差が激しい場所です。Decanter(イギリスのワインメディア)の評価95ポイントと非常に高い評価を受けているワインです。


<ヨーロッパのワインに詳しい斉藤さん(奥)、企画系ライター熊坂(手前)>


斉藤:香りもいいし、味わいもいいですね。どんなブレンドなんでしょうか。

熊坂:方向性としてはカベルネ主体のボルドーブレンド、そこにマルベック、グルナッシュ、カリニャンといった温暖な気候のブドウが入っていて、かなり複雑味がありますね。

竹内:この華やかな果実味は、グルナッシュやカリニャンの影響でしょうか。
 
今野:今すべて合わせてみましたが、この4種の中ではシラーがいいですね。

熊坂:シラーはこの中では一番香りが抑えめですね。

斉藤:私もシラーが一番落ち着いていると思います。カルメネールもいいですが、若干果実味が強い感じがします。

竹内:シラーは焦げた感じ、スモーキーな感じでうなぎの脂をすっと流してくれますね。スパイスの感じが山椒にも合います。


<料理系ライター・竹内さん>


今野:後味がシラーが一番いいと思いました。ソーヴィニヨン・ブランもそうでしたが、うなぎの脂と混ざったあとのふわっという感じが出るワインが合うと思います。あと、シラーはおつまみとして出す肝焼きにも合いそうです。

竹内:ああ、肝焼きいいですね!焦げた感じが絶対合います。


<全員一致だった蒲焼きとシラーのペアリング>


5. うなぎ店で出すワインの条件

熊坂:ところで今野さん、お店で出す場合、ワインの価格帯はどのあたりをお考えですか。

今野:うちとしては、グラスで800円か900円でお出しできるワインがいいです。ビールや日本酒など他のドリンクと同価格帯で、いつもはビールを飲んでいるけれど、今日はワインをグラスでまずは飲んでみようかという感じでご注文いただけたらいいですね。

斉藤:そのときにワインが合わなかったりするとがっかりしちゃうんですよね。以前にそういう経験がありました。「ワインの宿」と銘打つ旅館だったので、料理とのペアリングを期待して行ったら、出てきたワインが全然合わなくて。

竹内:やっぱりうなぎにワインは合わないな、なんて思われたら残念。そのあと二度と頼まなくなってしまいますよね。

熊坂:そういう体験をしてほしくないですよね。だから私たちの今日の責任は重大ですよ。

6. 「蒲焼きにシャルドネ」の意外性

熊坂:抜栓してから時間が経ってきて、ワインの味わいもどんどん変わってきましたね。

竹内:ピノ・ノワールも良い感じになって蒲焼きに合ってきてませんか。このピノは抜栓してしばらく置いたほうが合いますね。

斉藤:ほんとだ、香りが落ち着いたら、やはりピノはうなぎに合いますね。

竹内:ピノは初心者にはとっつきやすいですね。特に女性は、いきなりシラーだと重たいかも。

熊坂:でもグラスで出す場合は一杯で完結しますから、やはりおすすめはシラーでしょうか。

斉藤:ちょっと待って!今シャルドネと蒲焼きを合わせていますが、このシャルドネ、蒲焼きに合いますよ!

竹内:あ、全然印象変わりましたね。重さというかバランスが一緒というか。これはかなりいいですね。


<蒲焼きとシャルドネ20バレルの相性の良さに一同ざわめく>


熊坂:ああ、確かに!白焼きだとワインが強すぎる感じでしたが、蒲焼きは合いますね。

今野:シャルドネと蒲焼き、意外性があって面白いです。

斉藤:それにしてもこのシャルドネおいしいですね。減り具合が途中から変わってきました(笑)。

熊坂:何しろプレミアムチリワインですから。前回、オンライン飲み会のシャルドネ飲み比べでも、このワインは参加した4人が大絶賛でした。やはり20バレルはすごいです。でも私は8グレープスと蒲焼きの合わせも好きですよ。


<複雑性のある8グレープスも蒲焼きと好相性>


竹内:たしかに8グレープスいいですね。華やかさをむしろ楽しむ感じもアリだと思います。

斉藤:私はこの後味のリッチな果実味が、うなぎとベストマッチではないと思います。そういう意味でシラーは香りが抑えめで、蒲焼きには自信を持っておすすめできますね。

7. うなぎのペアリング実験、結論は?

今野:そうすると、白焼きにソーヴィニヨン・ブラン、蒲焼きにシラー、変化球でシャルドネという感じでしょうか。

熊坂:結論が出たようですね。

斉藤:シャルドネは、お客さんにシャルドネ好きの方は必ずいるので、そういう意味でもラインナップにあったほうがいいと思います。

熊坂:コース料理で、「蒲焼きのオススメは赤ワインのシラーなのですが、このシャルドネも合うんですよ」という感じで提案されたら、私がお客さんだったらうれしいかな。

斉藤:それと、ソーヴィニヨン・ブランのほかに泡(スパークリング)を選択肢にするのもありですよ。

竹内:たしかに、コースの場合、前菜から白焼きにかけては、「シュワシュワしたやつ」が飲みたいですよね。特にこれからの季節は。

熊坂:泡は日本酒にもないものだから選択肢としてはいいですね。

今野:食欲を刺激しますしね。

斉藤:うなぎに合う泡を研究してみたいですね。

熊坂:ロゼもいいと思いますよ。コノスルのロゼのスパークリングなんかばっちり合いそうです。

8. ワインとともに楽しむ新しいうなぎの食べ方

斉藤:いつも思うのですが、うな重だとご飯がドンと来てしまうのでお酒はそれ以上飲めないですよね。食事が15分で終わってしまって、お酒好きからすると時間が稼げないというか(笑)。

竹内:そう、うなぎは高いのに、こちらのお店みたいにお座敷とかない店も多くて、蕎麦屋さんみたいな雰囲気で、ゆっくり飲める感じではないですよね。

熊坂:やっぱり蒲焼きはご飯と一緒に食べたいですが、お酒を飲むとなるとご飯が余分に感じます。重でも丼でもご飯の量が多すぎて、今の時代には合わないのでは。食事だけならいいけど、お酒を飲む場合は、おつまみにもできるようにご飯は浅いお重にうっすらでいいと思います。

竹内:賛成です。昼間はお重でいいけど、夜はゆっくり飲みたいですものね。

斉藤:でもうなぎ屋さんにワインを置いたら、雰囲気が変わりますよね。そもそもうなぎ屋さんに来る方は食に関心があってお金もかける方だから、ワイン好きの方も多いはず。

熊坂:うなぎ&ワインコースを仕立てるのもいいですよね。タレが甘辛いので、ここに酸味をワインによって足すという考え方で、健康的にもいいですよね。ワインの提供温度もしっかり管理したら、新しいうなぎの食体験が提供できるのではと思います。

竹内:そんなふうにうなぎを新しい感じで楽しみたいという人も実は多いのでは。うなぎにはビールという方も多いと思うけど、単調すぎてせっかくのうなぎがもったいない気がします。ワインを置くことによって、これまでと違うお客さんの層を開拓できると思います。

熊坂:そうですね。ぜひワインも楽しめるうなぎ割烹としての大番さんの新たな展開に期待します。今野さん、本日はありがとうございました。

今野:こちらこそ、とても貴重な機会になりました。皆さんありがとうございました。ワインとのマリアージュでのご提供を早速取り入れてみようと思います。


<左から、斉藤要子さん、今野陽介さん、熊坂、竹内あけみさん>


・取材&撮影協力
【味処大番 御山本店】
福島県福島市御山字三本松14-1
https://www.ooban.com/contents/oyama/index.html

この記事で紹介したワインはこちら


シングルヴィンヤード 8グレープス
シングルヴィンヤード 8グレープス
8品種をブレンドした、コノスルの全く新しいコンセプトのワイン。それぞれの品種が織り成すハーモニーが素晴らしく、時間の経過と共に楽しめる。

レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” カルメネール
レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” カルメネール
熟成は11ヶ月。80%樽、20%ステンレスタンク。ブラックチェリーの果実香に、ビターチョコレート、コーヒー、なめし皮、ヘーゼルナッツなどの香りが感じられる。豊かなタンニンがワインにしっかりとした構成を与え、リッチでしなやかな味わいが特長。

レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” シラー
レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” シラー
60%をミディアムトーストのフレンチオーク樽で、20%をミディアムトーストのアメリカンオーク樽で18ヶ月熟成。ブラックチェリー、チョコレートやモカ、ベリーフルーツ、スミレの花のような香り。きめの細かい味わい。

レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” ピノ・ノワール
レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” ピノ・ノワール
樽熟成。イチゴやチェリージャムの香りの他にトーストやナッツ、僅かに腐葉土の香りを感じる。豊富な酸味とタンニンのあるがっしりとした構成。ボリューム感と長い余韻が印象的なワイン。

レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” ソーヴィニヨン・ブラン
レゼルバ・エスペシャル“ヴァレー・コレクション” ソーヴィニヨン・ブラン
ステンレスタンクで5ヶ月熟成。ライムやグレープフルーツなど柑橘系の果実香に、白い花のニュアンスとミネラルのヒントが感じられる。ミネラル分豊富で、フレッシュでエレガント。デリケートで瑞々しく、バランスの良い味わい。

20バレル・リミテッド・エディション20バレル シャルドネ
20バレル・リミテッド・エディション20バレル シャルドネ
洗練度の高いクリーンな酸味と、それを包み込むように程よいボディがあり、非常にバランス良く上品な味わい。

この記事を書いた人

熊坂 仁美

くまさか ひとみ

熊坂 仁美

  • (一社)日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート
  • (一社)日本ソムリエ協会 SAKE DIPLOMA
  • WSET SAKE LEVEL3
  • WSET Level3

SNSを中心にデジタルマーケターとして10年、企業アドバイス、書籍、記事の執筆、講演等を行ってきた。数年前から趣味でワインを飲むうちにはまっていき、本格的に勉強を開始して資格を取得。次の10年は、ワインや日本酒の文化とテロワールをテーマに研究と発信を行っていく。ワインの魅力で人を動かす「ワインツーリズム」にも大きな関心を寄せている。