2021.04.12
- 知識
【ブドウ品種に詳しくなろう!】Vol.7「黒コショウの香りの力強い赤」シラー
今回ご紹介するブドウ品種は「シラー」。フランス第二の都市で「美食の都」として知られるリヨンを流れるローヌ河渓谷地域を原産とする黒ブドウです。色あいも味わいも濃厚なフルボディの赤ワインを生み出し、高級ワインからテーブルワインまで世界中で幅広く楽しまれています。オーストラリアでは「シラーズ」と呼ばれ、同国の主要品種となっています。
1. シラーってどんなブドウ?
■産地の特徴を反映する品種シラーの原産地であるローヌ地方北部はローマ帝国の時代からワインの銘醸地として栄えており、長期熟成できるスパイシーでエレガントな高級ワインが多数作られています。エルミタージュ、コート・ロティなどが有名です。シラーは土地の特徴を反映しやすい品種で、冷涼な土地ではハーブや黒コショウ、より暖かい土地ではブラックベリーやダークチョコレートなどのノートがあるしっかりしたフルボディのワインになります。
■シラーの香りと味わい実は小粒で果皮が厚く、青みがかった濃い紫色をしています。一般的に色が濃く、ボディがしっかりとしていて豊富なタンニンを持つのが特徴で、香りはフルーティーかつスパイシー、ブラックチェリーやプラム、ユーカリ、甘草、黒コショウなど、たくさんの要素を含みます。味わいは黒いベリー系の果実味、スパイシーさや豊富なタンニンなどブドウ本来が持つ個性がはっきりと表現されているブドウです。熟成するとなめし皮などの動物系のアロマが出やすくなります。
■「シラー」の特徴まとめ1.フランス・ローヌ地方北部原産の黒ブドウ
2.オーストラリアでは「シラーズ」と呼ばれる
3.気候によって味わいが変わる
4.スパイス、特に黒コショウの香りが特徴
5.高品質なものは長期熟成のワインとなる
2. コノスルのシラー
■チリのシラーチリにシラーが上陸したのは1993年。チリで初めてシラーワインを造ろうとした人々は、「濃縮重厚タイプ」のシラーの代表格であるオーストラリアのグランジをお手本にし、その産地のバロッサを真似てアコンカグア・ヴァレーやコルチャグア・ヴァレーなどの温暖な丘陵地に畑を拓きました。最近は、冷涼地で栽培される “クール・クライメット・シラー”が注目を集めています。シラーの故郷であるフランスの北ローヌはバロッサやコルチャグア・ヴァレーよりもずっと涼しく、そのことを認識した人々はサンアントニオ・ヴァレーなどの冷涼地へと畑を移しました。コノスルもその一人です。(関連記事:【チャリンコ通信】Vol.2 20バレル・シラーはエルミタージュを超えたか!? (後編))
コノスルのシラーのラインアップは「ビシクレタ・レゼルバ」「レゼルバ・エスペシャル」「シングルヴィンヤード」「20バレル」の4種で、チリの中でも冷涼なサンアントニオ・ヴァレー、リマリ・ヴァレーで栽培されています。
■サンアントニオ・ヴァレー(シングルヴィンヤード)海に近いサンアントニオ・ヴァレーのレイダに位置するカンポ・リンド農園は美しい風景が広がる農園で、一番奥には「シングルヴィンヤード」用のシラーが植えられています。この場所は冷涼な海風の影響を強く受け、朝になると海から湿気を含んだ冷たい風が流れ込んで来ます。この風がこの一帯を冷やしてくれるため、ブドウがゆっくりと熟し、しっかりと酸が乗ったブドウが生み出されます。
レゼルバ・エスペシャルおよび20バレルのブドウが栽培されているのは、海に近く気候は冷涼で、日照量が豊富で雨量の少ないリマリ・ヴァレーです。石灰質土壌のためシラーの栽培に適しています。世界で最も乾燥していると言われるアタカマ砂漠に近く、年間を通じてほとんど雨の降らない地域で、収穫期にも雨が降りません。夏場の気温は非常に高いものの、寒流のフンボルト海流が流れる太平洋に向かって広がっているため、冷たい海風が吹き込み、冷涼な沿岸部のカサブランカ・ヴァレーやサンアントニオ・ヴァレーと同様に朝霧が生じます。そのため果実の成熟に好影響を与える日較差(昼と夜の気温差)は約20℃にもなります。土壌は粘土と粉状になった石灰質から成り立ち、ミネラルを多く含みます。
3. シラーに合う料理は?
フードペアリングの提案をしているサイト「The Matching Food and Wine」からご紹介します。フードペアリングの専門家、フィオナ・ベケット氏は、「シラーに合うのは端的に言えば肉、とりわけステーキや他の牛肉料理」と言います。
「グリルしたポークもいいですね。ガーリックを利かせたソーセージも。ガーリックはタイム、オレガノ、ローズマリーといったハーブと同様にシラーに合います(プロヴァンスや南フランスの料理を思い浮かべるとわかりやすいと思います)。
ただし、黒コショウには注意してください。シラーにはコショウのノートがありますが、だからといってコショウを使った料理と合うとは限りません。コショウを利かせたソースのステーキは、ワインの香りを消してしまうことがあります。
また、黒オリーブを料理に加えるとシラーと素晴らしく合います。
ラムもオススメです。個人的にはより良い組み合わせがあると思います。ラムにベストマッチなワインはカベルネやテンプラニーニョ(特にリオハのワイン)、イタリアの赤だと思いますが、それにこだわるつもりはありません。シラーも合いますのでぜひお試しを。
シラーとベジタリアン料理を合わせる場合は、豆やレンズ豆、ナスやマッシュルームなど風味の強い野菜をベースにしたボリュームのある料理を選びます。また、シラーはチーズに合う最高の赤ワインのひとつです」
4. シラー4種をテイスティング&ペアリング
ビシクレタ・レゼルバのシラーはハンバーグや肉団子などカジュアルな肉料理と合わせるのにぴったり。レゼルバ・エスペシャルのシラーはさらに果実味がはっきりして、スパイシーさも増しています。このエスニックなワカモレ(アボカドディップ)とトルティーヤチップスと合わせてみました。
ビールと合わせるようなおつまみも、カジュアルでスパイシーなシラーと合わせてみると新鮮で、新たな味わいが生まれます。
シングルヴィンヤードのシラーにはブラックベリーとともにチョコレートのニュアンスがあります。チョコレートやモカのノートは4つのシラーの中で最も強く感じられます。味わいに複雑さと楽しさがあり、ワインだけでも十分に楽しめます。そこで、今回はシンプルに生ハムとオリーブを合わせてみました。
生ハムの塩味とオリーブのオイリーさがシングルヴィンヤードのしっかりした酸、はっきりしたスパイス感と合わさってとても良いバランスを創り出しました。こういった簡単に用意できるシャルキュトリーはお気に入りを常備しておくと、「料理する暇はないけどゆっくりと赤ワインを楽しみたい」というときに便利です。
20バレルは、お祝いごとやちょっと贅沢をしたいときに登場させたいプレミアムなワインです。こちらには定番のステーキを用意しました。青みがかった深いルビーレッドはグラスに注ぐだけでステーキディナーの期待感をより高めてくれます。酸味とタンニンの良いバランス、黒コショウの香りも心地よく、口に含んだとたんに肉が食べたくなります。
このワインには、あえて赤身肉に粒コショウをたっぷりまぶした「ペッパーステーキ」を合わせてみました。フィオナによるとコショウには注意が必要で、シラーのペパリーな風味を消してしまう場合があるということですが、果たしてその結果は?
ソースは干しブドウを入れた赤ワインソースにしました。ソース用のワインはもちろんシラーを使っています。
フィオナのアドバイスは正しかったようです。粒コショウの存在感が大きく、シラーのスパイシーさが見つからなくなってしまいました。
それでも、20バレルのシラーとステーキのペアリングは素晴らしいものでした。口の中でワインの酸味とタンニン、粒コショウの柔らかい辛味、ジューシーな肉の旨みが溶け合い、さらに干しブドウの甘みが加わってオーケストラ状態、大変美味しくいただきました。赤ワインソースはみりんで甘みを出すこともできますが、やはり甘みだけでなく果実味がある干しブドウがソースにはおすすめです。また、ガーリックと焦がしバターのソースなども合うと思います。
果実味とスパイシーさの両方を持ち合わせるシラーは肉料理の美味しさと楽しみ方の可能性を広げてくれます。カジュアルからフォーマルまで、あらゆるシーンに合わせられるコノスルのシラーラインナップ、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
<参考記事>
https://www.matchingfoodandwine.com/news/pairings/the-best-food-pairings-for-syrah/
<参考文献>
日本ソムリエ協会 2020教本
この記事で紹介したワインはこちら
ビシクレタ・レゼルバ シラー
イチゴやイチジクのジャム、煮詰めた赤い果実の濃厚な香り。シラー独特のスパイシーさも微かに感じられる。豊富なタンニンと、質感あふれる口当たりが印象的。やや若さはあるもののベルベットのような滑らかさ、スムーズな舌触りとボリューム感が味わえる。
レゼルバ・エスペシャル “ヴァレー・コレクション” シラー
60%をミディアムトーストのフレンチオーク樽で、20%をミディアムトーストのアメリカンオーク樽で18ヶ月熟成。ブラックチェリー、チョコレートやモカ、ベリーフルーツ、スミレの花のような香り。きめの細かい味わい。
シングルヴィンヤード シラー
カンポ・リンド葡萄園の第25区画「ラ・パルマ La Palma(=ヤシの木)」の葡萄を使用。冷涼な場所で育てられた葡萄をオープントップタンクで発酵。シラーの力強さがありながらも、程よい酸味、まろやかなタンニンが感じられるエレガントなスタイル。
20バレル・ リミテッド・エディション シラー
新樽100%で16ヶ月熟成。とてもエレガントな果実味が楽しめるフルボディ。タンニンは豊富ながらよく熟していて、バランスの取れた酸と共に全体を引き締めている。
この記事を書いた人
くまさか ひとみ
熊坂 仁美
- (一社)日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート
- (一社)日本ソムリエ協会 SAKE DIPLOMA
- WSET SAKE LEVEL3
- WSET Level3
SNSを中心にデジタルマーケターとして10年、企業アドバイス、書籍、記事の執筆、講演等を行ってきた。数年前から趣味でワインを飲むうちにはまっていき、本格的に勉強を開始して資格を取得。次の10年は、ワインや日本酒の文化とテロワールをテーマに研究と発信を行っていく。ワインの魅力で人を動かす「ワインツーリズム」にも大きな関心を寄せている。